県内初のICTを使った障がい者在宅就労の現場
愛媛県の障害者就労支援でのITの活用は2006年12月愛媛県指定第1号の就労継続支援A 型事業所「まるく株式会社」(現株式会社マルク)の開設に始まったとも言える。また同法人は2008年1月「松山市在宅就労促進事業第1号事業所」の認定を受けた。開設2年後(2008年)には19人の重度障害者の在宅就労を実現した。
この就労継続支援A型事業は「障害者総合支援法」に規定されている障害者のための就労支援事業である。ここでは通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による(労働基準法が適用される)就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等の支援を行い、一般就労(通常の事業所への就職等)を目指すことが目的となっている。
平成18年9月から本格的に施行された障害者自立支援法(現、障害者総合支援法)では障害児者福祉事業のほとんどで営利法人が設置主体となることができるようになった。まるく株式会社はまだほとんどが非営利法人立の事業所ばかりであったときに設立された。設立の契機は法人代表が自身が傷病により就業が困難になり「障害者就労支援」について当事者側として現状を目の当たりにし不十分な支援体制の拡充のために寄与したいという志であった。開設当初は規則通り通所可能な者(障害種別は問わない)を対象として運営していたが重度障害者の在宅就労支援を開始する。
そのきっかけとなったのがK氏(女性、当時25歳、頸椎損傷等で全身まひ、人口呼吸器)。「まるく」と雇用契約を結びA型利用者としてデータベース入力に従事することとなる。
K氏は大学生時代に交通事故により大きな障害を負ったが医療関係者などの協力によりその生涯を補うパソコン入力デバイスとアプリケーション操作が可能となった。当時の最先端技術によって眼球と舌しか自由に動かせないという障害を補うことができた。医療機関から自宅へ復帰後は大学や学生の協力を得つつ卒業証書を手にすることができた。しかし卒業後就職はかなわず、日課も仕事もない生活が続いた。その折自宅の改造等の設計を請け負った事業者がK氏の就労の可能性についてNPOぶうしすてむに打診し同法人からえひめ障害者就業生活支援センターへ相談。同センターがK氏と面談し「まるく株式会社」に対し在宅でのA型利用が可能となるよう検討を依頼。これについて同社は障害者雇用対策および障害福祉行政等と幾度となく相談を重ね許諾を得ることができた。かなりの時間を要したがこれは「前例がない」ことへの行政判断の困難さが要因であったと思われる。同時にぶうしすてむはK氏へ更なるパソコン操作技術の習得を目指し個別の支援を提供した。
A型事業者と行政は重度障害者の就労の道を拓くために苦心し、ぶうしすてむはその技術力と活動経験を支援としてK氏へ提供し、K氏はその障害と闘いながら学び、そして家族や介護者、医療関係者はK氏の命を支え、K氏の「仕事のあるあたりまえの生活」の実現を目指した。そして2008年1月まるく株式会社と雇用契約を結び在宅就労がはじまった。
この実績によって愛媛県内の就労継続支援A型事業所で多くの在宅就労障害者が活躍できるようになった。
R7.8.1現在の愛媛県内の就労継続支援A型は74事業所あり1,323人(定員数)が仕事のある生活を実現している。そして事業者の多くは重度障害者に在宅利用(支援)を提供している。パソコン等機器を使いほぼ健常者が従事している作業集と同様の仕事を提供し併せてその習熟を支援している。